目を合わせてくれない、シャイな男だった。横山隆蔵さん、54歳。
小学校4年生から高校生のころまで所沢に住んでいた横山さんは、荻窪の日本料理屋で3年間料理人として働いた後、民宿奥川入の経営を始めた。
一体何故、民宿なのか。
所沢にいた頃、夏休みなどを利用して小国に行っていた横山さんは、同級生にこう言われる。
「いいよな、お前は田舎があって」
そんなことを言われているうちに、彼の中に、こんな考えが生まれる。
「都会の人たちの、田舎になればいいんでないの?」
これが、彼が民宿を始める原点だった。
料理人になった理由についても、「民宿のための日本料理屋だ」と断言している。
素料理人の横山さんが腕によりをかけた朝食。山菜漬けが絶品だった
「農家で金を使って、民宿で稼いで、鉄砲で遊ぶ」
ニヤニヤしながら言い放つ横山さんだったが、経緯を聞けば、その姿勢がいたって真剣だったとわかる。
私が、「『遊ぶ』ってどういうことですか?」と尋ねると、彼は「『遊ぶ』は『遊ぶ』だ」と言いながら、「遊ぶ」の一言ではとうてい収まらない、彼なりのマタギ観を語ってくれた。
「俺がやってるのは、食べるための鉄砲じゃない、でも、獲ったものは食べる」
「鉄砲ってのは、命を奪う行為だろ?だから、次に繋げなきゃいけない。奪うだけなら、殺人鬼と同じだ」
「鉄砲で遊ぶ」と言い放った男が、取材開始から2時間以上経って、ようやく語ってくれたマタギ観だった。
訪れる客と、一晩で旧知の仲のようになってしまう彼。
私たちが訪れた日に泊まっていた客は、親しみを込めて、彼を「こんなの」と呼んでいた。
取材:早稲田大学 吉本理駆(2017年9月)